船形山から幻のブナ林をさがして

12月23日、幻のブナ林を探しに行ってきました。
幻といえるかどうか分かりませんけど、昭和62年発行の「船形連峰御所山案内」に、岩手大学・菅原亀悦教授による「県立自然公園船形連峰学術調査報告(昭和51年)」の一部が掲載されています。その中に、「若畑ブナ林・ 大和町吉田の若畑部落から南東約600mの地点で、海抜100〜199mの地域に約25haのブナ林が見られる。この林は樹高20m内外、胸高直径50〜80cmになるブナの大木が優占し、それにイヌブナ・コナラ・センノキ・イタヤカエデなどによって構成されている・・・・・・このような低海抜の丘陵地に残存しているところは極めて珍しく、学術的にも大変貴重なものである。」との記述があります。この一文に初めて触れたのは、10年くらい前だったでしょうか?ずっと気にはなっていたんですが、どこにあるのかな〜程度のもので実際に探してみることもなくそのままになっていました。普通ブナ林といえば海抜500mくらいから見られるようになりますよね。周辺の道路は月に何回か通りますが、道路からはまったくその気配は感じられませんでした。ところが先日、別な目的で周辺の地形図を眺めていたら、ちょうどそのあたりに針葉樹林の記号に囲まれた広葉樹林の記号があるではないですか、しかも標高もちょうど100〜200mくらい。もしかしてこの広葉樹林は、あのブナ林では・・・?との思いが出てきたのです。そうなったら確かめずにはいられません。

天気もいいし、程よく雪が積もっていて夏場ならヤブコギのところも楽に歩けそうです。適当に車を走らせますが、道路から見える広葉樹林はコナラなどが主体の雑木林でそれ以外は杉の植林地です。地形図をみて見当をつけたところから杉の造林作業道に入ります。見通しの聞く範囲は杉ばかりで、暫く歩くと昭和61年植栽と書かれた標識がありました。学術調査報告が出されたのが昭和51年ですから、4半世紀も経っているわけで、もしかしたら調査の後に伐採されて杉が植えられ、ブナ林はもう存在しないのでしょうか?整然と並ぶ杉の林の中、入り組んだ作業道を適当に歩きまわります。20〜30分も歩きまわったでしょうか、杉の隙間からちらりと葉を落とした広葉樹の大木らしきものが目に入りました。作業道を離れ無雪期にはけっこうなヤブコギになると思われる、ちょっとした尾根道をそこに向かって登ります。

10分くらい歩くとそこには樹高20m位、幹周り3mはあろうかというブナの巨木が、人間見るのは久しぶりだなあとでも言うように立っていました。陽の当たらない杉林の中を歩いてきたせいか、落葉した樹間からの日差しがとてもやわらかくそして暖かく感じました。ブナ林は毎週のように行っていますが、この場所ほど暖かく感じた所はありません。杉の植林の中で、その空間だけが、なんか時の流れに忘れられたかのように存在しているように思えてならないのです。もっと大規模で優れた林相のブナ林は他にいくらでもあります。ブナを見るのだけが目的だったら、このブナ林を見たからといって別にどうということもないでしょう。しかし、私はこの場所に立って、言いようのない喜びと感動に包まれたのです。

ブナの幹にはしっかりとツキノワグマの爪あとも残っていました。クマもここには食べ物があることを知っていたのでしょう。後の木の上の方からキツツキの木をつつく音が聞こえてきます。そして小鳥の声もにぎやかに聞こえてきます。狭い林なのでそれだけ小鳥の密度が濃いのでしょうか?本当にこの近くにだけいるという感じです。

林の中を細い沢が通っています。ちょっと雪が解けて茶色い落ち葉が積もっているのが分かります。春になったら人知れず小さな花が咲くことでしょう。

 

気持ちをやさしくしてくれる母なる樹

水平方向は七つ森の中腹くらい

クマの爪あと

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